▼小型はばたきロボットの開発
倒壊現場など極限環境における観測システムとして、地形の影響を受けない飛行型ロボットが挙げられる。飛行機やヘリコプター等飛行様式は数多く存在するが、飛び立ち時の数Gを超える加速性や旋回性に着目すると生物が利用しているはばたき機構には多くの利点がある。 中でも、隘路なども自在に通過するような場面を思い出せば、昆虫の飛翔は非常に魅力的である。昆虫は、はばたきによって翅境界で生成された剥離渦との相互作用を利用して大きな揚力を得ていると考えられており、現在多くの研究が行われている。 しかしながら、数値計算においては、流れ場から受ける流体力で翅が弾性変形し、その弾性変形によって流れ場が変化するという連成問題は非常に複雑であり、いまだ確立された手法が存在しないというのが実状である。
また、実機の製作という観点から制御系に着目すると、昆虫のニューロンは高々105程度のオーダであり複雑な制御は望めないはずであるが、システム全体としての運動能力は極めて高い。 これは自身の構造系のダイナミクス、つまり「形態」を最大限に利用した結果であると考えられ、この構造系のダイナミクスを利用することによって制御系を単純化することが可能になることを示している。 「飛翔昆虫は翅を振動させると浮き上がる構造特性を有しているのであり、複雑な制御を行っているのではない」というのが本研究の設計概念であり、制御系と構造系を調和する設計原理の本質を示すものである。また、これは、高性能のCPUやセンサを利用しにくい小型飛行ロボット等の分野において非常に重要な概念と言える。
以上の視点から、本研究では、数センチオーダのはばたきロボットを開発することを目的とし、はばたきを利用している昆虫として翅の自由度が少なくはばたき周波数が低い蝶を取り上げ、以下の項目を実施する。
- (1) 3D高速度カメラシステムを用いた飛翔メカニズムの解析
- (2) 可視化実験による剥離渦の生成・再利用メカニズムの解明
- (3) ボディの運動・翅の弾性変形・流れ場を考慮した数値計算による運動解析
- (4) 構造系の動力学特性を利用することにより制御系を単純化した実機の開発